『ちへど吐くあなあな』小林里々子

松本智子はなんとなく飛ばして、これ読んだが、老齢女性がいきなり再び生理になるという非リアリズム。でその生理が無生理症状の若い女性に移ったりして、最後は血のついたナプキンを銀座でばら撒いたりする。まあありえない事ばかりおきるし、登場人物は少しづつ皆狂気に犯されているのだが、リアリズム小説に慣れた者でもそれほど読み辛く無く、また、それらの狂気はみな現実と確かな繋がりをもっている。ここすごく評価したい。ケアホームや百円ショップなど、舞台は生き辛い者たちが生きる場所に設定され、それらの合理性、きれいさの空虚を確実に醸し出している。ナプキンをばら撒くのが銀座というのも、そこに根拠があるように書かれている。
いわばこの小説は、このきれいな社会において辺境に押しやられた者たちの呪詛なのだ。といってもそんな気張る姿勢からはやや遠く、その呪詛は暗いかたちでこの小説内で吐露される訳ではない。小説全体がどこか少し楽天と諦めもまじっているような明るさを持っていて、著者の力量を感じる。さきほど読み辛くないと書いたが、こんなとこにも理由があるのかも。良い作家はどんな暗い局面でもユーモアを見出すのだ。
一部の男たちがへんに女性っぽい(というか男性性を失ってる)のも面白かったが、これらだって現実の裏づけがないわけではない。昨今の一部の若い男性の喪失感もきちんとフォローしている。若者と接する機会がある人は実感していただけると思うが、こういう辺境を感じ取れない多くの元気な若い女性を比べると、かれらの力の無さといったら。(しかしこれもまたカタチを変えた近代に過ぎないのだろうけど。)