『鮒のためいき』戌井昭人

なんだこりゃ、という感じ。まるっきり私の嫌いな前田司郎そのまんま、という感じで、これで最後まで何もなかったらすごい時間の無駄だなあ、と思っていたら、ほんとに何も無かった。
どのへんが前田司郎かというと、日常のどうでもいい少しも面白みのない所にいかにも何か面白さがあるかのようにクドクド描写するところ。藪北がやきぶたに見えるとか、いったいどこが面白いんだろうか。こういうのをすべりまくりと言うのだろう。最初の風邪薬を飲むところから始まって、そんなどうでも良いくどさばかりである。それともこれが演劇になると面白いのだろうか。全く見たいとも思わないが。
結局この主婦にしたって全く主婦という実感がない。どうみたって行動が独身男性だからだ。男が一人称で書かない限りこういう女性に出会うことがないだろう。いくら風邪気味で思考が混乱しているからといって、いきなり一人でスナックに入ってみたり、河原のサックス吹きに、汚れたお札を渡してみたり。鮒料理のできそこないを大量に庭に埋めるというのも無理があるだろう。子供じゃあるまいし、後からどんな臭気を発するかもネズミだのカラスだの呼び寄せるかもしれないこんな処理の仕方を、よりによって厨房経験のある人がするとは。しかも近所がすぐ間近にある都会での話である。
しかし、もしかして今まで見られない主婦像だからといって、こういうのを「新しい」と歓迎したりする人もいるのだろうか。そんな新しさは願い下げ。


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