『松かさ拾い』青山七恵 

逆にこの青山作品に描かれた女性には、とても新しさを感じたのである。いや、正確にいうと、この女性の描き方に。
ひじょうに抑制された感情描写なのである。思ったこと感じたことを、主人公女性が対象にどう接したか、あるいはどう見たか、から炙り出そうとする。どういう視線をもってその人物を眺めたか、その人物の行動をどう描いたかによって、その対象への思いを表現するわけである。こういうのを絵画的といったら良いのだろうか。よく描かれた絵には、その対象への思いが滲み出たりする。
この作品では、主人公女性が(半ば公に)付き合ってる男性への不満といったものは口にされない。詳細に調べたわけではないが、全くその手の思いは書かれていない筈だ。にもかかわらず、不満の空気が漂う。いや、不満というのとは違う。彼女は約束のために駅まで可能な限り急いだりするのだ。不満というより、”満足ではあるけれどもどこか求めるものと違う”という思いだろうか。
そして、主人公女性が世話になっていて、かつ好ましく思っている中高年男性の、その妻のことを余り知ろうとは思わないふうなのが、かえって、嫉妬であるとかそういう感情をうかがわせたりする。
このような直接的でない微妙な描き方が、もっと背景にあるもの=職が無い事も含めた生きるということの不安、を作品中に漂わせるのに成功していて、間違いなく現代のリアルな小説だと実感させられる。