『青春の末期』辻 仁成

辻の作品などわざわざ読むのは相当暇な証拠と思われかねないので言い訳すると、短篇だったから。たぶん読みながらあれこれ考える必要もないだろうし、サっと読めるかな、と。一応知られた作家なので、そうやってごくたまにチェックいれておくのも必要だろう。
しかし予想以上に読めたのはビックリ。最後まで読んだもん。これ以上にヒドイ作品はあったなという事で[紙の無駄]ではないな。
法曹界をやめて政治家になろうとしている人物を描くなんて平気なのか、と思ったけど、やっぱり書けてない。政治家になろうという人間が冠婚葬祭の場で、自らの肉親の悪口を、しかもほぼ初対面の人間に吐露するなんて。やっぱこのひと(辻のこと)、コミュニケーションってものが分かってないのでは、と疑いたくなる。
だいいち政治家の内面なんてのは、文学の題材としてそもそも不適であって、辻には荷が重いのではないか。すなおに音楽業界のゴタゴタみたいなものを私小説ふうに書いたほうが、まだ良いものができると思うのだが。
超常現象みたいなのを経験しておきながら、また、友人にほんとうの父親像を明かされておきながら、主人公の何かが変わったのかもはっきりしない。この曖昧さが文学っぽさなのだと勘違いして敢えて書かないのか、書くだけの技量がないのか。


ところで、辻の作品を文学作品としてまともに読もうとしてる人って、みんな辻がむかしどういう感じのミュージシャンでどんな歌を歌って、どんな行動をしていたか、とかみんな知ってるのかなあ。知ってるとはあまり思えないんだよなあ。