『神器―浪漫的な航海の記録』奥泉光

今月号はちょっと話が停滞気味ではある。
ほとんどが老艦長の独白で占められているのだが、この艦長の過去にたいしてあまり興味を感じない人にとっては、今月はつなぎの月という感じか。
明治建国以降、日本という国の中心にはつねに軍というものがあって、それが最大限に拡大したのが第二次大戦の頃、というふうに直線的にイメージしてしまいがちだけど、それ以前には軍縮の時代というものがあって、軍人が、ともすれば蔑まれるような事もあったんだ、というのは無知なわたしにとっては充分面白かった。
日常から逸脱した話者が、徐々に、また時として突然異形の相を明らかにする、というのは、奥泉作品の定番といえなくもないが、好きな人にとってはいつ読んでも面白いね。