『風を放つ』恒川光太郎

なんか古臭い名前の響きだが、ベテラン作家ではないし、それほど歳を取っているわけではないようだ。もちろん読むのは初めて。
読後としては割と良く書けているなあ、という感想。この内容をこの長さに結構コンパクトに話を纏めて、それでいて分かりづらいところもあまりない。技術的な裏づけがなければなかなかこうは書けないだろう。キャラ作りが割と成功しているほうだし、会話文もよく考えられている。
ただ、肝心の主人公の心境がいまいち掴みづらい。会ったこともないがしかし1時間以上も話し込んだ女性に、なぜにそんな酷いイジワルをするような心境になったのか。後にも先にもそんな酷いことはしたことがないのに、そんなに簡単にまた忘れてしまうだろう、などと言えるのはなぜなのか。
そして、仕事が徐々に与えられなく無くなっていきクビになるというのだから、この主人公もまた相当変わり者なはずなのに、男性作家の書く男性主人公は、またしても、普通の、ニュートラルな、どこにでもいる男性然としてしまっている。またしても、と書いたのは以前にそういう傾向がある、と書いたからなのだが、それにしてもいったい何故なんだろう。