『天空の絵描きたち』木村友祐

高層ビルの窓を拭く仕事をしている人たちの話。つまりは下層労働者の話で、この作家は一貫しているなあというところ。下層が善玉で上層が悪玉という単純左翼的世界観が気になる向きもあるだろうが、物語のつくりが巧みなのでそれほど抵抗なく入り込めるし、近年の、下層こそが抑圧の主体であったり(朝鮮差別とか)、上層にあるものが下層と自らをつごうよく仮装したり(原発をめぐる状況とか)、な状況で、ともすれば決定不可能な虚無に陥りそうな世にあって、むしろこういう単純な世界観の小説はあっていいのではないか。下層労働者が現状に前向きになってしまうのはその肯定につながるとかいっても、体を動かす下層の仕事はたいてい誰かが結局はやらねばならぬことだし、大銀行とゼネコンがいくら開発の青写真を描こうとおれたちが鉄骨担がなかったら何も進まないんだぜ、くらいの誇りはあっていい。