『歌う人』又吉栄喜

琉球王国支配圏内の、とある島出身の初老の男性が母親が亡くなって葬式などのために久しぶりにその島へ帰る。で何を思ったか、時期が来ても墓のなかに骨を納めようとせず、骨壷を抱えては、島に伝わる古い歌(支配者を讃えるようなもの)を、周りの困惑も省みず歌い続ける、そんな感じの内容。
一次産業の人たちも歳をとってくるしどんどん寂れていく島をどうするか、といった現代的な問題も出てくるが、最終的には、島を観光地として綺麗に整備しようとする青年の妄想みたいなのに帰着してそれが深められることはない。というか、島を変えていこうとする側の人たちは、島で酒を飲むことを禁止したりして、いささか乱暴な人たちというふうに描かれているのだが、なんの産業も誘致できなければ観光化というのは手軽でもあるし避けられないことで、こういうふうに戯画的に描いて半ばバカにするようなのは理解に苦しむ。
もっと理解に苦しむのは、近代(明治政府)による蹂躙が強すぎるのかどうかは分からないが、それ以前の近世を懐かしむというか賛美さえしかねないようにも思えるところで、なにが描きたかったのかはっきりしない。
われわれが置き去りにしてきたものに再び目をやろうとするのはそれはそれで構わないと思うが、置き去りにしてきたものは、それに取って代わったものの有益さに鑑みれば、悲しくも置き去りにするほかなかったものでもあって、いまさらそれを持ってこようとしかねないまでのノスタルジアには今ひとつ乗ることができない。なんかフェアでない気がするのだ。




この号の「すばる」については、あまりに書くことなかったので以下おまけ。