『ある日の、ふらいじん』伊藤たかみ

震災をおもなテーマにした小説で、被災地にいって自転車を直すみたいな話よりは身の丈で考えていてよほど共感できる内容だった。震災を機にいっきに性急になったような雰囲気にたいする違和が主につづられる。そのなかにはたぶん小説家の震災をうけて発せられた数々も当然含まれてくるだろう。ここには直接書かれていないが。
ラストで震災前のありようを無理にでも思い出そうとする主人公を描いたのは、震災後、震災前の日常を忘れたかのように大きなテーマにあーだこーだ言っているものたちへの強烈なアンチテーゼではあるまいか。いま思うべきは、思い起こすべきは「それまで」なのに、問題がもしあるとすればそこにこそ、日常にこそあるのに皆「これから」に夢中になっている。といって、日常を軽々しく反省できてしまうとすればそのような扱いができてしまうとすればそこにある錯誤はさらに問題なわけだが。