『しらふで生きる方法』桜井鈴茂

題名のとおり。なんのヒネリもなく、アルコール中毒を題材にした作品だ。で、このヒネリのなさに見られるがごとく、志には生真面目なものを感じるのだけれど、いかんせん、アル中にいたったいきさつにせよ、その途上での修羅場にせよ、立ち直りの過程にせよ、特筆すべきものもなく、読むものの予想を出ることがない。どころか、なんか主人公の生きかた全般があからさまに格好よさげで、しゃれた会話のできる都会の女性であって、前職も編集者だったり、ろくに素性の知らない男性とセフレだったり、介護職までこなしたりする。下手したらアル中ってこんなものでしかないのか、という誤解すら与えそうだ。ロクでもない男性にひっかかって場末の風俗しかないとかでなく、そのセフレはいたってまじめに求婚めいたことをしてきたりしてしかも断られても逆上したり嫌がらせもなく、家族からの追い出され方もスマートに行われ、かと思えばその住むところを失うタイミングで新天地での新しい職業が舞い込んでくるという都合の良さ。理解してくれる人も少ないとはいいつつその人が仕事を紹介してくれるという。こんな友人がいるんなら、たとえ一人だってかなり恵まれてるというものだろう。
そういえばこの主人公のセックス相手に関してはクスリもやったりする人物なのだが、そういうことする人物にこんな格好いい台詞言わせるなってのもあったが、実はいちばん残念なのは介護での現場でのエピソードがありきたりであることだ。もっとも桜井氏ばかりがどうのというより、こればかりはまだ現実においついている小説はすくないのかもしれない。