『案山子』藤沢周

ボケかかった老父とそこへたまに(月一くらい)様子見に返ってくる息子とのやりとりを描いた話。
観念的な情景描写をながながやられると時折ついていけなくなりそうになる私は、こういう作品で初めてこの作家の上手さに気づかされた。(しかし鈍いもんだね。)
まず会話が、まさしくここにあるのは父と息子だからこそありえるようなシンプルさだよな、というふうに書かれていてとても読ませる。そしてこの老父ならではの気性。あっさりしているようでいてときにわけも分からずしつこかったりというような、まさしく小説中に書かれているような「手強い」感じがよく出ている。頑固というのとは少し違う。たとえば若い女の子だって頑固と表現されたりする人いるしね。そしてただの頑固者だったら、扱いはむしろ容易なんだ。
そしてこの二人のあり方のシンプルさが、情景描写までもシンプルにして良い方向に作用しているのではないか、とも思える。