『老婆の災難』松家仁之

編集者とあるだけで、どういう人なのかさっぱり分からず、失礼なことを書くかもしれない。ちょっとこわごわ書いてるが、許してもらおう。だってこの人が非難している製紙会社の立場からすれば、まったくの言いがかりだもん。
いや親族が交通事故に会ったというハナシなのだが、加害者側の保険会社からまず連絡があったことをもって怒っているのだが、保険を利用している人間から言わせてもらうと、そういう被害者との交渉ごとを面倒見てもらうということも含めてでわれわれは保険金を払っているのでありまして。それに業務でクルマを利用するような会社が任意保険に入っていないということもまず無い話。
まあ、このような過失割合100%であれば、一度は謝罪に来るケースが多いのは確か。私自身の経験(全て私の過失割合が低い)から言うと、タクシー会社の場合は、タクシーの事故担当の人がすべて窓口だったものの、事故の当事者の運転手さんが一度だけ涙ながらに謝ってきた(ただし電話)。運送会社の場合は、当の運転手が直接病院に来たが私は寝ていた。個人ドライバーの場合は、私の過失もそこそこあったし、人身部分は軽症だったため、バイクの原状回復など金銭のハナシはすべて相手の保険会社で、直すバイク屋を指定されそうになったり結構面倒だったが、相手のドライバーと事故現場後、いっさい話をしていない。
もちろん保険会社も、相手を怒らせて民事裁判だの告訴だのという話になれば、加害者の保険利用者(ユーザー)に不利益だから、いちど謝りに行ってください、ということもあるかもしれないが、コストも絡むし、事故後まず保険会社から電話連絡は仕方ないだろう。それでその対応が失礼だからと慰謝料を相場より上げようとしても認められないだろう。とにかく一度来いとかやっていて、そんなのを通例にしたら、どれだけ保険料が上がるんだって話だ。で、重要なのは、そういうダダ捏ねによるコスト上昇で保険料が上がって、保険未加入車が増えた場合、結局不利益は交通弱者がかぶってしまうのだ。いつも相手方が事業者とは限らない。
そんなこんなだが、ともあれ、まず謝れ、は分からなくはない。がいくら何でも、いきなりそんなすぐカネはないだろう。すぐに見舞金を持ってくるものと思っていた、というのがこのエッセイのすごい所だが、オトナの世界ってそういうものなの?クルマ社会では、そんな性格の分からない領収書ももらえないようなもの、一度払ったら、また幾度と無く要求されるかもしれないし(むかしは当たり屋という存在があったくらい)、気持ちがあっても渡せないだろう。もし渡したらそんな勝手な事して何の為保険入ってるの?と保険会社に呆れられるかもしれない。事業会社としても経理上の科目はどう処理するのやら。
まあ色々書いたが、失礼しました。松家さんの不満も気持ちとして分からないわけではないので。保険で払われる慰謝料にしろ、実際の過去の民事裁判などを参考に文句の出にくい計算式が存在して、それで円滑に成り立っている部分が大きいのだが、もちろん松家さんがそもそも日本の民事裁判で示される額自体が被害者に酷すぎるのだ、とより根源的な批判をする事はとめられない。ちなみに私は、なんだ治療費の実費以外にこんなにもらえるんだと慰謝料に感激し、事故後その当時は珍しかったTREKのフルカーボン車を買ってしまった。(TREKが何なのか羽田圭介氏ならすぐに分かるだろう。)