『陰雲晴れぬ』西村賢太

『新潮』最新号より。この小説を読んでから、ある言葉が頭から離れない。「オリシー」。
略語としては、文芸誌買い出してたぶん初めてお目にかかったのではないか。この言葉を小説のなかに持ち込んだだけで、この小説の成功は約束された。しかし、おりものに拘りが強いなーこの人は。
「根がスタイリストに出来ている」なんて記述は確かに可笑しいけどちょっとやり過ぎの感もあり。それでも、マンションでの管理人との、傍からみればものすごく小さな行き違いが、住んでいる2人にとっては大事件の様相を帯びるというのは、実感として分かるとしか言い様がなく、こういう題材をちまちま小説にしてくれるのはあり難い。「オリシー」も他に無ければ、書いていることも他にあまりないものだ。