新連載『会社員小説をめぐって』伊井直行

読む前はテーマとしては面白そう、おおいに期待だったのだが・・・・・・。
前置きが長いというか、くどいというか、中心のまわりをまずメタからぐるぐるめぐるだけみたいな感じがいかにも1980年代な感じというか。かなり2回目以降の期待はしぼんだので御座います。
例えば、サラリーマンが背景から前景になったことをいかにも特別な事のように書いているが、説得力はなく、サラリーマンになりたての頃なんて自らのアイデンティティが不安定なわけだから、周りの自分と同じ職業の人達がどんな様子かなんてのは、いつも以上に気になるのは当たり前で、ただそれだけの事なんだけど。
たとえばいくらサラリーマンというのが凡庸だと思っていても、失職してネクタイを締めることがなくなったような不安定な心持の人にすれば、沢山のサラリーマンはいやがうえにも目に入るだろう。あるいは大学生になりたての人なんかは、サラリーマンなんて遠い身分の人より、自分に近い大学生っぽい人の格好や様子のほうが気になるだろう。こんな事にページを費やされてもねえ。
いちばん最後に語られる「もうひとつの発見」は、社会人になった人間に訪れるあの不思議な強制力に触れていて、最初からここを書いていればなあ、と思う。
この人を変える力は相当だと私も思っていて、そしてまたそれに従わせるのは金ばかりではないのではないか、とも思っている。これはどんな力のある教師と出会おうと決して学生時代には訪れない種類の強制で、つまりはすさまじいばかりの断絶が、われわれの青春期後半には存在するという事だ。