『明後日になれば』古井由吉

あるときは達観したかのようであり、またあるときは息遣いというか気配というか、結局長々生きてきてそんなものしか無かったといわんばかりの境地の、老人の日々を描写。
あるときはいつもの古井作品でしかないと感じられるものの、またこれを別のあるときに読めば深く心に差し込んでくるんだろう、そんな小説。
子供との交流の様子が面白い。いかにも文学的な夢幻な存在のようでありしかし、ああ自分にも子供時代、こんなふうにわけも無く老人に付き従ったことがあったな、と思い出された。小学生の低学年の頃だっただろうか。近所の雑木林にしては大きめの林をひとり散歩していたとき、下枝の処理でもしていたのか、ひとりの老人に遭いその仕事にずっと付き添っていたことがある。我が家では迷子になったと大騒ぎで、近所の顔役的な人にまで相談し、山狩り寸前まで行ったのだった。
その老人の人も子供を連れ回してきっと申し訳なく思っていたのではないかと思うが、私が家に帰ったあと私の母親などとどういうやり取りがあったのか、それはさっぱり覚えていない。