『冬』古川日出男

このブログを始めた当初から180度評価を変えたり、変えないまでも、保坂和志とか藤野千夜とかそれほど悪意も感じなくなっていたりする私なのだけれど、古川日出男は全く分からない。で、この作品も分からない。"分かりやすさから外れた所にこそ"とか上で書いているけど、ここまで見えないとさっぱり分からない。天皇だの明治だのいうから、何かあるのかもしれないけど、私の読解力ではたんに思わせぶりなだけだ、これでは。
困ったのは、取り立てて悪いと指摘するような点が表面上はないところ。文章は短文。体現止めや倒置を駆使し、強調や言い換えによる繰り返しも多い。特徴といえば特徴かもしれないが、これが取り立てて言及する程度のものとも思えない。
とにかく印象に残らない。冬の匂いも立ち上がらなければ、人の手触りも、犬や馬がそばにいる実感が湧くわけでもなく。話もたんに青年が京都に移動しただけの話だし、その移動のなかで、様々な人物に出会い、という事なのだが、いかにも思わせぶりな事を言う写真家を筆頭に、ただ思わせぶりなといいたくなる、それぞれいっけん変わったふうな人物が登場するのだが、主人公は彼らと接触しながらも結局は傍観者というか観察者でしかなく、深く関わろうとはしない。だからなのかもしれないが殆ど印象に残らない。作者にしてみれば、面白い人物を造形したつもりなのかもしれないが、残念な労力でしたとしか言い様がない。
しかし今一度。これは一体なんなんだろう。
と思ってしまうのは、きっと作者が何を書きたいのかさっぱり分からないせいだ。
世の中には人によってそれぞれ違ったいろんな趣味があるし、同じもののなかでどこに面白さを感じるかというのも人によって違う事はままある。だから私がさっぱり面白いと思わないこれの、どこかには面白い点があるのかもしれない。その可能性は認めよう。いちいち教えて欲しいとも思わないけれども。
しかし何を書きたいか分からないというのが、つまらない以上に問題だとは思わなかった。というかそれ以前?