『拍動』シリン・ネザマフィ

最後にいたってはベタな内容という感想が起きるかもしれないが、面白く読めたのだから仕方がない。とくに、交通事故に遭った人の親族のうちの、故郷からやってくるひとびと、妹と男二人の様子が面白い。彼らと主人公との間に起こる緊張関係が、この先どうなるかと嫌がうえにも思わせ、つい先を読んでしまう。
惜しむらくは、日本の医療体制に文句をつけてくる彼ら男ふたりが、じつはそう悪い人ではないんだというふうな印象を読者に持たせるべく描いて欲しかった。日本人からみればあれこれ文句つけるうるさい人達なんだけど、あくまで日本人からみればでしかないのだ。主人公が、つい彼らの前では固まってしまう所なども、もう少し掘り下げても良かったかもしれない。逆に、主人公を騙していた日本人の人物はもっと酷く書かれていい筈だ。
それにしても、学生生活の縁で通訳を引き受けることになったというのはストーリーとして面白いし、そこへの入り方も工夫されているし、主人公がどう通訳するかは先程いったように興味を充分ひき付け、医者はどう対処し、家族はどう反応するのかなど、退屈するところが殆ど無かった。文學界新人賞は間違いではなかったという事だし、とくに私にとってはあの作品以上だった。