新連作『除夜』古井由吉

うーむ。何年も前に寝た女の匂いを男が発しているというんだけれど、さすがに物理的にそんなことはなくて、でも、これ読んでると、いかにもそういう事が(今の女性がそういうふうに感じることが)ありそうに思えてくるというのが、なんとも面白いよなあ。きっと、その「感じ」というのは別の言葉が与えられていれば取るに足らないものかもしれないくらいの微細なものだったりして、しかし、いったん言葉が先行すると、「そう」なってくるんだろうなあ、と思う。やや、言葉が先行しているかのような。
誰かに怒られるかもしれないけど、築かれている世界が藤沢周っぽい。でも、自らを客観視するような度合いが、全く異なっていて、古井氏の(主人公の)主観というのは、自分の内にありながら、自分を外から見てるような具合にもなる。
面白いのは、冒頭しばらくして、この歳の暮れがいつもの年とは更にまた暗い違った様相だろうか、と昨今の金融危機に象徴される資本主義のどんづまり感が述懐されているところ。すばるの茅野氏の意識まで侵食するくらいだから、相当なものなのかも。
2年くらい前の連作よりもアップツーデートした感じになるんだろうか。