『東京ロンダリング』原田ひ香

テレビドラマだな、これは。
純文学を「マンガのようだ」と評すると、マンガを貶めるなというある意味まっとうな批判もされたりするけど、私は無論ここで、「テレビドラマ」というのを堂々と悪い意味で使っている訳である。そりゃテレビドラマのなかには、一昔前のTBS系列のようにそれなりに見せるものもあったが、最近のそれを総体的にみるならば、悪い意味でしか言及の仕様がないように思うのですが、いかがでしょうか?
まあそれでも純文学以上には需要があるのかもしれないですし、どんな形であれ必要とされるのは素晴らしいこと。以前からそう思うのですが、この作家なんかはむしろそちらで出世する可能性があるのではないかと。
目立たないように暮らすのが仕事でその道のプロのような設定をしておきながら、おしゃべりなオバサンに勧められ料理店でバイトをするという支離滅裂さにも不可解というか、それ以上に読んでいて猛烈にイライラさせたが、冷静にみれば、一番のこの作品の欠陥は、親同士が知り合いでありながら、離縁しておいて自分の親元に何の報告もないという凄まじい不自然さだろう。自分の親とどうしてそんなに断絶しているかの背景も殆ど説得的に言及されていないので、全く訳がわかりません。
細かい事で覚えているのを言うと、なぜかそんなに親しくない人まで主人公を最初からファーストネームで呼ぶけど、そんな事はまずこの世にはないし、後半になって主人公の携帯電話の電池がなくなり充電器が手に入らないとか、今や汎用の乾電池式のがコンビニにたいていあってそんな事などなく、ああ主人公に誰も連絡をさせないように話を都合よく展開するためだなあ、と思ってしまうし、他には、テレビも世事にも疎いはずの主人公が、高級マンションでの芸能人の動向はなぜか知っていたりとかも変だったなあ。主人公はまた、銭湯の誰かさんが料理店を手伝える可能性があるという話を聞いたそばから「私以外に人がいない」とか言って、これも理解不能。辞める為の理由があれば、どんなに些細なことでもそれにすがるのが普通じゃないのここは?
とまあ文句ばかりでは印象悪くなるが、この作家は芸能界だの、海外ドラマだのの話題に触れることがもともと多いのだから、やっぱ書く場所はここではなくもっと日の当たる場所ではないかとしか思えない。
最後はそれとなく恋人っぽい男性と難問を解決しちゃったりして、このオチを、はあ?こんな度胸がある人間だったかよこの女性、いきなりの訪問者に怯える人じゃなかったの?と文学的に捉えると疑問が渦を巻くが、よくまとまった後味の良いストーリーと考えれば、これはこれで、となるだろう。すばるというか集英社には掲載誌をよく考えて欲しい。
最後にこんな事言うのもなんだが、ワケあり物件に住むという面白い設定を考え話に取り入れたところだけは評価しなくてはならない。