『抱擁』辻原登

この作品の特徴として一番に感じたのは、若い女性の一人称語りのスタイルに違和感を持たせないためかどうか、やや話があっちいったり、また、拙い言い回しを用いたりしているところ。
そういう点を考慮しても残念ながら、他の辻原作品よりは面白くない。当時の世相もあまり伝わって来ない。決め台詞的に終わる起承転結は見事なのだろうが、肝心の内容である、子供がかつて仲の良かった御守役の死んだ女性の存在に取り付かれるという話も興味を引かないし、子供を殺そうとすることがなぜその存在を引き離すことになるのか、もピンと来ないのであった。