『帰り道が消えた』青山真治

どちらかというと丹念な心理・情景描写と、その際のねちっこい文章を味わうタイプの作家だと思っていて要約するのもなんだけど、肝心のところだけ書くと、女性主人公が浮気として付き合っている男性の妻が、女性主人公が幼稚園の送り迎えを頼まれていた親類の幼児を連れ去ってしまった(かもしれない)話。
前半は、男性作家の描く男性にしては格好よすぎとか思いつつもそれほど不満なく読めたし、主人公の女性との出会いのシーンも悪くない。後半もいざ行方不明という事件が配置されたところまでは、どうなるのかとワクワクする部分もあったのだが。うーむ。
いつのまにか秋なのである。結果どうなっかたも知らず、主人公は故郷をぶらついている。幼児が行方不明になったのは夏なのに。いやいくら茫然自失としていたからって、こんな無責任はねえだろうよ、といっても仕方がないのは分かっている。分かっているけれども、誰がどういうふうにして責任を負ったのかという肝心の所がぼかされたままでは、これまた肝心の主人公の内省に私は全くとは言わないがあまりついて行けない。ラストなど良い迫力のある文章だけに残念である。