『街を食べる』村田沙耶香

こんなそれほど長くない小説でも、やはり異彩を放つ作家である。『群像』にのった作品と少しだけモチーフは引き継いでいて、こんかいは都会に「自然」を見出し、そこに生える草を食べることで、身体でその「自然」を感じるようになる、そんな人物を描いている。
道端で摘んだものが最初いくら煮ても食えないところなど、、その生理的感覚がよく分かりリアリティがある。また、この作者の他の作品の主人公にもみられる、この世からはずれてしまった行動に一人いそしむドキドキした感覚は、今回もよく描かれている。
そしてもう一つ特筆したいのは、これほどまでにズレてしまっているのに、彼女の作品の主人公には、会社の同僚とか友人への醒めた目がないということ。この作品で出てくる同僚の「雪ちゃん」も存在感がある。(あるだけでなく、こういうラストになるとは思わなかったが。)
むろんこういう主人公も、けっして特殊ではなく、近代的自我のひとつのありようであることは確かなのだが、4WDを駆って山道を荒らして、河原でキャンプ用品並べて「自然」がどうのこうの言う、そういう行動が自然にできるような輩には、この作品の良さは分からないだろうなあ。