『桜草団地一街区 爪を噛む女』伏見憲明

実質1作しかない小説がこのつまらなさとは・・・『すばる』よ・・・880円は高かったぜ。
いくら目に余る軽薄さとはいえ、主人公のその性格で、評価を左右しているつもりはない。ありえない軽薄さだから、読む手も止まってしまうのだ。母親が見下していたライバルの大出世を誉めたからって、家出して一ヶ月も友達の家を転転とする社会人ってどうなの、という。
まあ、それだけでなくて延々と繰り返される主人公の自尊心と卑下の浮き沈みも、パターン化してこの上なく退屈だったし、パターン化を避けるためなのか随所で持ち出される比喩もどこかで耳にしたようなものか、あるいは大げさで陳腐。過去に自分が思ってもみなかった事があったときの「なにか自分の墓所が盗掘にでもあったような」は、とくに参ったので記憶に残る。「自分の墓所」て何?そんなものを抱いてる人が想像できない。
陳腐といえば、主人公を翻弄するミュージシャンも現実感が薄い。
孤独な老人にスポットライトを当てようとするのはとても評価したいし、団地での描写の部分はわりと生き生きしているだけに、その他の部分が残念すぎる。