『壁の向こうの彼女』深津望

(本当の所は分からないものの)作家さん本人からレスなど頂いてしまうような事があると、他にも繋がりが欲しくなってまた誉めてしまう・・・などという事はもとよりこのブログでは全くするつもりはないので、正直に書いてしまう。ほとんど作品を発表していないような新人作家でなければこの作品、全く時間の無駄、紙の無駄として切り捨ててしまっただろう、と。
まず、およそこんな冗長な独白など現実的にありえない、というリアリズム的視点からの批判も可能だろう。なぜなら、独白以外の部分はリアリズム的小説なのだから。全く中身が統一されていない。
いわゆる"小説的リアリズム"というのが認められてるのだし、私の最近のお気に入りは鹿島田真希の連載だったりするし、こういう長台詞が全く駄目だとは言えない。というわけで、それ以上に言っておきたいのが、この独白の中身。全く空疎の一言。どこにも小説的リアルがない。
この「空疎」をもっと長く表現すれば、この独白する女性は苦悩なんかひとつもしていないのだ。小説的言語に酔って苦悩している自分に酔いしれているだけ。「理解できない底知れなさ」であるとか「その手紙だけが〜唯一の力を持っていた」とか「菓子のおまけの玩具ほどの価値もない」とか言う言葉がならんんでいるが、それらは先達の表現者の言葉から借りてきて並べているだけで説得力がまるで無い。今これらは手元に本があるので適当に抜き出したのだが、私には、『理解しようとする前に底知れなく思ってしまってるだけ』『ほんとうにその手紙以外に力は無かったの?ちゃんと他の何かと比較してる?』『人様をおまけのように扱うほどの体験がこの女性のどこにあるの』としか思えないのだ。
またこの告白を聞いた男性が、これほどの圧倒的な体験でありながら、聞いた直後にスケボーに繰り出すのも全くピンと来なかった。この人物もまたよく見えてこない。