『一一一一』福永信

福永信らしいトリッキーな作品。半ば監禁状態にある若い女性を老年に差し掛かった(と思われる)おやじがねちっこく詰問する内容。ほぼ会話だけで構成されている。
といってもリアリズム作品ではなくて、オヤジの麻雀に対するへんな拘りとか、いい加減な推測・決め付けにたいして、そうですね、とか、そうかもしれません、とか女性の側が極めて適当に答えていて、それが又オヤジのいい加減な詰問を誘い、それがこの作品の面白みでもある。
リアリズム作品ではないと言ったが、しかし、多少の誇張、やりすぎを除けば、このような会話は例えば安酒場とか行けばいくらでも繰り返されている。中年のくどい繰り返しや自慢話に、適当に相槌を打った経験は多くの人が持ってるだろう。また、素面の場であっても、このくらいの年齢の男性は一本調子で、考える内容に柔軟性を欠くような人も多く、よく特徴を表現しているとも言えるだろう。この作品を読んだ直後は、そういう男性の独り言とも思えるような発言を面白く感じられる事はあるかもしれない。
しかし、トリッキーな作品らしくその技術的側面を除いてしまえば、余り残るものはなく、[面白い]とするのは、私には難しい。より文学好きの人向け。