『聖地、のようなもの』松井雪子

鹿島田真希を筆頭として、私の読めなさに起因する作家評価のひっくり返りは結構あったのだけど、松井雪子、うーむこの作品は・・・悪いほうにひっくり帰りそう。
必ずしも底が浅いというほどでもなく、例えば、会社から家に帰ろうと思えば帰れるのに帰らなかったりする若者を描いたりする所など、現代の会社と従業員との関係って必ずしもドライの一言ではないんだよ、むしろ今の世の中の方が60年代の頃より会社に属する事に何らかの安心感みたいなものを抱いたり、そこで働くことにアイデンティティの実現を感じたりする人多いんだよ、という現実をきちんと描いていたりしていて、説得力を感じる面白い部分はゼロではない。女性が男性よりも粗雑な性格として描かれているのもいい。
しかし、肝心の話の内容がだなあ、単なる三角関係の会社の仲間同士の小旅行であって、その三角関係における「好き」も屈折のない小学生のような按配で、またそれぞれのキャラクターも一頃の少女漫画のようだ。下着にどきどきしてみたり、寝ていた布団のニオイにもだえてみたりと、おいおい社会人かよと突っ込みたくなる。
ところで全体がそうであるから無益な注文だが、その内の一人が姉と近親相姦にあったというくだりは、これはいらなかったのではないかと思う。いくら仲が良かろうとそんな簡単に明かす内容とも思われないし、それが破綻した後ならむしろ女性不信になるほうが説得力があるからだ。