『返却』宮沢章夫

中年男性が学生時代を懐かしがって昔住んだ町を訪ねて歩くだけの話。基本的に物事の観察が一般人のそれと殆ど変わらずチープだから極めて退屈。なんの批評性もない。
文章が下手というほどヘタではないが、何度読んでも意味がすっと落ちてこない箇所が数箇所ある。また、本人は面白いと思ってるのかもしれないが、比喩を出しておいて、そんなのに出会ったことはないが、とかいちいち書くのも興醒め。これで文学に対する批評のつもりだとしたら何とも幼稚な。
30年も借りっぱなしになっていた本を返しに行くというのも、リアリズム小説としてあまりにも考えられない設定だし、全く関係のない図書館に「せっかくここまで来たのだから」本を返そうとなんかするわけがない。またそこにおける会話も不自然。
こういう否定的な気分に包まれると細かいところも気になる。八王子が「東京の西の果て」だとか(言うまでも無く八王子なんて町田のちょっと先であって奥多摩からみれば全然東)、レジを打つ店員の指の早さのようにとか(言うまでも無くレジは今どこだってバーコードであり打ったりしない)。中途半端に世間ずれ。