『ゼロの王国』鹿島田真希

新潮の平野作品が終わってしまったので、今いちばん面白い作品がこれ、という事になる。
導入と終わりの読者に向けて語るスタイルも、いかにも近代小説っぽくて面白いし、ほとんど会話だけからなるその内容がまるで漫才のように楽しめる。今月号では吉田青年がパーティーで職業を問われて、「フリーアルバイターです。」と堂々と答える所など爆笑である。
ただし笑えるだけでなく、吉田青年の在り様が現代的な青年に対する批評にもなっているようにも思える。この青年の徹底した礼儀正しさと謙遜ぶりは、こんな極端な青年はいないのは当たり前として、今の若者男性の文学的なカリカチュアとして、そのひ弱さと病的な正義志向を非常に上手く表現していると思う。