『やさしいため息』青山七恵

OL主人公。4、5年音信普通だった弟と再会。ちょっと変わった方法で自分の日常の平坦さに気付かされ、変化を求めたくなる。結果やはり目に見えて変わらなかったもののちょっと気持ちが楽になる、といった内容。
まずはこの他愛も無い内容でこの量を最後まで読ませるのだから、力量は確かに感じる。芥川賞はやはりだてではないか。
それでも比喩や情景描写のなかには、いまいちすっきりしない流れの悪いものも感じて、これから積極的にフォローすべき作家とは、この点だけでも思われない。
また主人公と付き合いかかった弟の友人の人物像がすっきりしない。キャラとしてきちんと呼吸していないとでも言おうか。名前などからもっと魅力的であっておかしくないのになぜか魅力を感じず、しかも亀を飼っているというのは何かハズしてしまっている。
そのせいなのか、この彼の生き方や性格について必要以上に言葉をもって説明せざるをえなくなっている気がする。
逆に弟の風太については、いまどきのフリーターはこんなんじゃないよ、という反発も聞こえてきそうだが、よく描けているかもしれない。多少姉より大人びて見させている面のみが先行してしまっているきらいはあるが、彼なりの複雑な内面があることを伺わせ、それについての説明や立ち入った内面描写がないことも他者性=真実味を出すことに成功している。
主人公のOLは同僚と帰りに飲みに行くことも言い出せないにもかかわらず、弟の友人にたいしては待ち伏せして会うなどなぜか行動的で、そういうもんなのか、と思ってしまう。そしてまた変化を求めたのにすぎないものが、弟の友人への思いを抱いているふうになってしまう気持ちのつながりがしっくり来ない。変化を求めたに過ぎないものが、ひとつの異性への意識と昇華するためにはもう少し何らかの「出来事」がなくてはならないんじゃなかろうか、と思ってしまう。
ところで思うにこれは、弟が主人公の小説として読むものなのではなかろうか。
彼は、さまざまな人の人生をスケッチするなかで、特別である自分に見切りをつけ、家族のもとへと帰っていく。そういう青春小説のひとつとして。