『ここ』福永信

非常にテクニカルな小説だが、普通に本を読むのに必要な程度上に読み込む努力を要するような、こういう作品は好きではない。
ABCDとだけ名づけられた主人公が順繰りに少しづつ描かれていくのだが、追われる場面が度々出てくることから夢の記述なのかなとか、似た場面が出てきたりするからパラレルワールドなのかなとか、Aは男の子っぽいがCは女性か?いや人間じゃなくてこんどは猫っぽいなとか、そういう様々な事をいろいろ前に戻って読み返したりするのが苦痛。
逆にいえば、読むのに時間がかかってもそういう事が楽しめる人ならば、これは面白い小説なのだろう。そういう人がいても良いと思うし、『文學界』の短評では絶賛されていたようである。
ただの人生をただ切り取って見せるだけで面白いと思わせるには、描写に相当の鋭さや新鮮さが必要だと思うのだが、平均程度以上のそれをこの作品が備えているようには思えなかった。


ところで今回書いた3作品の作者、何の因果か皆1972年生まれのようで、ちょっとした競作なのであった。