『世界は牡蠣』黒田晶

これは言及に困るかんじ。可もなし不可もなし、というか。
英国でシェアハウスにて暮らす怠惰な若者たちの様子を描いたもの。ただ、ほんとに様子を描いただけであって、何か起承転結めいたものがあるわけではない。短編なんで仕方ないのだろうか。
ただし、日常を切り取ったに過ぎない作品にしては、食料品店での買い物の店員の人種差別の様子など適度に面白く読ませる部分はあるし、キャラクターもそこそこ魅力あるかも。
最初読んだときは、いちばんぐうたらな作家志望の男性がまるで独白のごとく形而上な議論をしていたりして、あ、なんかピンチョンっぽい内容なのかな、と不安と期待が入り混じったが、ピンチョンみたいな訳の分からなさは皆無だった。
あとは、顔の造りは美しいけれどもちょっと苦手に思っていたはずの北欧系の男性と、いきなり寝てしまうことになる日本人女性のそこへ至る気持ちの動きがイマイチ掴みづらかった。これがいちばんハイライトの出来事のはずなんだけど。同時に、その北欧人男性はもとから日本人女性が気になっていたのだが、その気持ちの描写もピンと来ない。
べつにそれは悪いという事ではなく、あえて心理描写は浅くしてあるに違いないのだろう。翻訳ものにはこんな感じのはいくらでもあるのではないか。ただ私にとっては、これを読んで何かが残るかというと、ウーム・・・という事である。