『臈(らふ)たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』第4章 大江健三郎

断っておくけど、もう最終章出ていて、これから書くのはその一つ前の章について。
それほど面白くないから、読むのを後回しにしていただけ、でして。
ストーリーは、スチール担当のスキャンダルから映画の話が流れるけど、大江氏がそれとなく好ましく想っている女優は、そんな事気にしないぐらい造反有理の物語にのめり込んでいる。しかし、自らの性的被害が上映されることによって決定的にとどめをさされてしまう、といったところ。
大江氏の、自らの故郷での思い出を美しくしか語ってこなかったという罪意識と絡めて、そんな極私的な出来事が語られるわけなんだけど、やっぱ正直いって面白くないよね、これ。
登場人物もちょっと癖のある人が多いし、語り口もさすがベテラン作家だなあ、という所はあって、なんじゃこりゃこんなものが文学かよ、っていう負の部分はないけど、ストーリーとしてどうなんだろう。
大江氏の故郷に伝わる一揆の話の、一面的かつ近代的な勧善懲悪な理解では理解しづらい部分とかがクローズアップされかかりつつも、されるわけではないし。これでは単に心を病んだ国際派女優と心を少しだけ病んだ映画プロデューサーに振り回されてしまった、左派系知識人、兼小説家ってだけだ。
全共闘の連中を冷たく扱う記述があったのが唯一興味深かったけど、総じて言うと、こういう私的な出来事を作品として出されて、書いたのが大江氏以外の人だったら読まないだろうなあ、って所かな。大江健三郎だけに許される、そんな作品って気がしてきた。