『天国を待ちながら』青山真治

あのうるさいオバサンというイメージの金井美恵子に"ようこそ"といわれた青山なのだが、なんで金井がそこまで青山のことを買うのか、じつは余り理解できない。
相変わらず主人公は、また、ほかの主要登場人物も自意識の怪物と化していて、なぜにそこまで焦燥し、転がり落ちていくのか? 漠たる不安という事なのだろうか、いずれにせよ、読んでいて実感として掴みづらいのである。
相変わらず、と書いたのは古本屋で異常に安い値段で『月の砂漠』という文庫を手に入れて読んだことがあるからで、とにかくあの作品も、その自意識の肥大ぶりと、それを延々と綴る描写に辟易した。今作は、あの作品からほとんど変わってないように思う。変わらないということは、良く言えばこれが青山真治のスタイルというものであり、それなりの支持者がいるのならば、それはそれでいいのだけど。
夫婦の性生活を撮って衆目にさらす危険を冒すというこの、あえて軋轢を作り出すという姿勢など、時にナルシシズムの気味さえ感じられ、もう勝手に死んでくれよ、とまでは思わないが、主人公の意識についていくのがつらい。この作品のようにストーリーの起伏のないものだと、その思いはさらに増す。
題名の"天国を待ちながら"というのは、作品中で言及される映画で、その映画の粗筋が詳しく小説内で語られるのだが、こちらのほうがまだストーリーらしきものがあり、この部分を膨らませて作品としたほうが良かったと思う。
青山真治という人は、対談とか読む限りなんかすごく実直そうな良い人なので、頑張っては欲しいのだけど。