『母の記念日』楠見朋彦

そこそこの分量があり、期待が大きかったぶんの反動が[普通]という評価になったかもしれない。
これが、普通の新人賞かなんかの作品であれば、すごい書ける人が現れたなー、となるくらいのものではある。
キャラの整合性もとれているし、会話中心の描写も無駄がない。良いセリフも沢山あった。


一言で纏めてしまえば、現代的な家族のあり方を描いた作品。読み終わったとき、あくまでも私のなかでのイメージだが、長嶋有が書きそうな作品だな、と思った。
主人公の母親が、なんと主人公の同級生と付き合うというところなど、いかにも、子供を産んでもそう易々とオバサン化しない昨今の中年女性という気もするし、海外で余生をなんて話も最近よく言われるようになったことだろう。まさしく現代的である。
本来あったであろう激しい葛藤や悲しみの場面を省くことにより、より好きに生きることのできるようになった現代人が、その欲望と家族のつながりとどう折り合いをつけるか、どうしたらストレス無くつながっていられるか、という事を示すのには成功しているように思う。
そういう小説なんだといわれればそれまでなのだが、やはり私には、ぐらつきや不安感に比重のある小説のほうが性にあっているようだ。
この作品を前にして、今は書きたいことはあまりない。私が鈍い人間だからなのかもしれない。


ちょっと前にもっと短い『完璧な朝食』も読んだが、私の記憶の中でのテイストは今作と似ていて、『ラジオアクティブ・ラブ』に衝撃を受けた人間としては、ちょっとばかり落胆。でも次も必ず読む。
あの驚きよ、もう一度。