『りんご』吉田修一

予想もしなかったが、中国人(厳密には香港人)の話である。
吉田修一は古本でいちど読んだことがあって、たしか『パーク・ライフ』という題名だったと思うが、読みやすい小説だがしかし見事に何も残らないな、という感想を持ったのは覚えている。
今作はあれから比べれば、日本から飛び出しているのだから、題材は目に見えて進化している気配。少なくとも、たんに主人公の名前が中国名になっただけじゃないか、という以上のものは感じられた。もしかしたら、『パーク・ライフ』を読んだ頃は、作者といかにも等身大な一人称小説はウンザリという気分だったのかもしれず、それもあって、今作を少し高めに評価しているだけかもしれないが。
読みやすさも変わらず、それは文章力の高さに裏打ちされているのだろう。
がしかし、やはり残るものは何もない。
吉田修一とはそういう作家なんだろうか。少なくとも今作を読んで、吉田のほかの作品を読もうとは、まず思わない。
ついでに挙げると、冒頭のシーンで、行列のなかに蝋人形が鎮座しイギリス人カップルとそこで会話するシーンについても、あまり効果的に使われているとは思えなかった。