『雲の影』片山恭一

なんだろうなあ、というのが最初の感想。『セカチュー』に偏見があったわけではないのだが。


この作家のほかの作品で、アマゾンで人物が薄っぺらという評があったけれど、それに抵抗するように、心理描写が多い。が、同じ人間のものとして統一感がなく、リアリティがない。
そして、こうやって人物造形しておいてそいつがこんな事言うか、という不可思議な会話がどんどん出てくる。


具体的にむむ、と思ったところをひとつ例にあげると、主人公女性が、いきなり外で知らない老人に声かけられながら、で、人違いらしいと分かっても、ろくに正しもせず、その女のフリをして適当な受答えをし、挙句、勝手にその老人に親近感を抱く・・・。
なんて残酷なんだろう、と思ってしまう。
だって、たんなるボケなのか、目が悪いのか、心の病なのか、すぐには分かるはずもないのに適当な受答えしてしまってるのだ。
しかも、その老人が深く愛する人に間違われてるようだ、ってんだから、下手すれば人の心まで弄んでるわけだ。
人物よりも話が優先していて、話のために無理な人物を作ってしまっているような気がする。古い小説観を振りかざして申し訳ないが、やはり主人公はもう少し感情移入できるものであってほしい。


※2008.10.18 きつい表現を大幅カットし、適宜改稿しました。