文學界新人賞『こどもの指につつかれる』小祝百々子

なくした右腕が語る、という設定ではありながら厳密な右腕視点を貫くほどでもなく、神視点というか持ち主の内面語りと区別なくなってきたりしていて、それは技術上の難点というよりは分かっていてやっていることなんだろうけれど、読む方としては読む手がとまったりもする。そして思うのだった、こんな設定が必要だったのうか、と。
ただ手を止めさせるという意味では、「生きる」という事に関して深い、読み手につきささる洞察もみられたし、ピアノの演奏シーンの描写や涙を流す描写などでは右手という設定の助けがいくらかでも働いているのか非凡な、光るものを持っている感もある。相当な力量を感じさせ受賞は納得できるものだった。
と書いたところで少しだけ文句に戻らせてもらえば、ちょっと主人公(といっても右手ではなくその持ち主)が老人にしては格好良すぎるかなという点は不満で、たぶん男性作家ではこういう感じにならないだろうし、これで一部の選考委員のいうような老境小説の要素とかいっても笑わせるなという。あとは、弟の存在がやや小説に溶け込んでいない感があった点が難かな。