『関東平野』北野道夫

なんかこれまでの北野作品に比べ、作品自体も短めであるばかりか内容も地味というか仕掛け的なものも余りないように感じたのだけれど、これ芥川賞候補にたしかなったんだよね? さいきん賞の動向にますます興味が薄れていて後からどこかでちらりと目にしただけなので、記憶違いではないとは思うけど、選考委員がどう反応したかまでは知らず。(そもそも村上龍山田詠美の反応以外はつまらんし。)
題名で関東平野というからには射程がひろく著者の作品に込める意欲の強さを伺わせ、その広大な荒廃加減がいくらかでも味わえるかと思ったが、たしかに主人公と主人公が昔知った女性(主たる登場人物はこの男女だけ)の荒廃加減はじゅうぶん出ているが、舞台として小説に出てくるのは郊外のショッピングセンターや東京駅周辺とその通勤圏内くらいなもので、読後にこの題名は偽りありかなと思ったものだ。しかしよくよく考えてみて、関東平野というものをどう書いたらそれを表せるか、としたときに、この特色のなさ、描かれのなさこそが、むしろ関東平野らしくはないかと考えれば、逆説的にそのらしさは出ているのかもしれない。じっさいにはクルマにはじまりクルマに終わる的なものでこそ、関東平野だと、人のにおいと無機化合物のにおいでむっとするドアを開けた時のにおいを感じさせて欲しいと思うけど、主人公は関西の人間らしいしね。
内容は、夢の断章を集めたかのような内容で、これといった物語、筋的なものは希薄だ。しかも、現実に引き戻されつつのときどき夢にというのではなく、シチュエーションを変えて主たる登場人物の男女が出会ったりすれ違ったりという内容で、さっきも言ったように会話の調子などからも女性の心は広大に荒れてはいるが、このような文「芸」的なものに辟易していたときに読んだせいなのか、楽しさは感じなかった。むろん、たとえばデヴィッドリンチのインランドエンパイアみたいな映画が楽しめるような人にはこういうのがいいんだろうが、私は最後まで見る事もできなかったんだよね、あれ。
登場人物がときにびっしょりと濡れていることをもって、津波との関連性を指摘する評もあったようだが、これに関してはなんのことやらさっぱり。