『東武東上線のポルトガル風スープ』荻世いをら

この作家について、以前はけっこう文句言ったように思うが、ここまで徹底していると文句もない。語りのうまさ、面白さで読ませる小説で、そういう意味ではいかにも純文学らしい小説で、全く合格でグッドな作品。とくに冒頭からしばらく続くどうでも良さと回りくどさは味わい深い。なのだが、どうもその枠組み(文学らしい文学)のなかでのバリエーション的なところがあって、この人ならではの世界という強烈さまであと一息で届いていない印象は正直ある。それを獲得するには、ひょっとしたらセンスや聡明さがこの作家にはありすぎるのかもしれない。それは良い風にとれば、このさき色んなふうに変われる可能性もある、楽しめる、ということだ。