『東の果て』松波太郎

なんかこの人のスベり方というか、ハズし方も気にならなくなってきて、逆に面白く感じるようになってきている。最新号のすばるでもこの人は書いているくらいで、活躍するのも当たり前なのか。例によってつまりは私に見る目が無かったということ。
まず、主人公とバイト仲間との、仕事上でしかない、親密とそうでないものとの中間にあるような状態が面白い。なぜかメールに添付される文句まで再現する所が良い演出になっている。また、田舎の人間のあけすけな感じも、ああ、こういう人いそうだよなあ、と思わせる。
主人公の父親に対する屈折した感情は小説のテーマとしてありがちな書かれがちなものかもしれないが、バイトから正社員になる話が飛び込んできて、そのせいで、中国の古典を読み直し、自分の都合の良いほうに転がってホっと、という話そのものも、まあまあ面白い。面白くてまた今日的だ。途中で、実際の中国の故人の日記みたいなのが出てくるところも飽きさせない工夫があってよい。
田舎の軽食やで、カマスを何度も勧められるところなんかはちょっとやりすぎかな。でもそれもこの人らしさ。