『老愛小説』古屋健三

ヘンな小説だなこりゃ、が読み終わった直後の感想。そういう意味でだけは辛うじて存在意義はあるのかな。といっても、真っ当過ぎてつまらなような作品とドッコイドッコイでしかないのだけど。
ある意味、人を主体(目的)としてではなくモノ(手段)としてしか扱わない無責任男の一生、と要約できるのだが、それは別に構わない。そのお陰で十分老いてから復讐されてるわけだし、ひとりよがりの主人公なんて腐るほど見られるからね。
この小説のヘンだな、と思ったところは、主人公はいつだって冷酷といわんばかりに寡黙でブレないくせに、変わり者の妻の行動が極端にいったり来たりするところ。カラダ鍛えたかと思えば、お座敷ストリップだわ、で、呆けて死ぬ寸前までいったり、かと思えば家庭料理に凝りだしたり、何かきっかけがあるたびにグルグル変わるんだわ、人間が。何かに凝るわけだから分裂症というのじゃなし。読んでいて、何よ、こんどはこうなっちゃうのかよ、もうドタバタ劇寸前だなこりゃ、というふうになってきて、真剣味が伝わって来なくなってきてしまう。
その一方で、フランスで出会って死んだ若い女性にたいするフォローが無さ過ぎ。同室で自殺までされてるなら、もっともっと関わろうとするか、あるいは全く忘れ去ろうとするか、どちらかだと思ったりする。