『子守唄しか聞こえない』松尾依子

なんか群像新人賞も、新潮新人賞のように、新人賞を決めるというより今回の応募作品のなかでの相対的トップを決めるみたいになってるなあ、というのがまず読み終わった感想。
一言でいえば、ケータイ小説+純文学÷2という感じか。ケータイといえばメールをたまにそして乗換え案内くらいしか使ってなくて、ケータイ小説など読んだことは無いのだが、そんな感じがしてしまった。
というのはこの小説、「死」を扱っていながらリアリティが無いのだ。ケータイ小説については、死が身近な話題として出てくるけどすぐ立ち直ったりする云々などと語られてるのを聞いたことがあって、その死への距離感について近いものがあるのではないかと勝手に想像した。作者も若いし。
最後の方での同級生の自死にもその遺書にも、リアリティというか、別の言葉でいえば説得力というものが無い。自死する人の文章とは思えないのだ。またそれに輪をかけて、主人公が傍目に自死しそうに見えるなどというのも、ただそう記述されるだけで全く説得力がない。何がそうさせるの、という所が見えてこない感じられない。誰もが抱えているような思春期特有の憂鬱しか感じられなくて、これでは、日本の高校生は皆自殺しそうな奴という事になってしまう。私の感受性が鈍いせいなのかしらないが、そうは見えない。ちなみに、何がそうさせるについては、冒頭近くでの幼い頃危険を冒したあたりでは、とても説得力のある質の高めの文章であって「ああ分かるなあ」と期待させるものがあったのだが。
ともあれ、ほかのどちらかというと枝葉に属する部分−通俗的な登場人物像については、選考委員の一部(というより加藤典洋)が難ずるほどの困難は感じなかったが、この「自死」への道程という一番肝心な部分での説得力が感じられないというのは大きい。これでは高評価はできない。
他に難点をあげると、一人称小説特有の内省部分と外部との落差が増幅されてる気配があって、不自然さが目立つ。つまり、例えば男の子達の間にいる自分の女性性などについて、その観念をレトリックを駆使してうまく表現できるのに、同級生女性への嫌悪行動についてはたんなる幼児のようでしかなくなったりする。すごくアンバランスなかんじ。
蛇足だが、同級生女性への嫌悪で思ったことを思い出したが、性格悪すぎだよねこの主人公。いや同級生女性だってずけずけモノ言うし、性格悪さでは負けてないという感じなんだけど。自分勝手気まぐれで、勉強会にいく服装にあれこれ悩むほど女性でありながら、恋人以外の男性友人に女性扱いされると違和感感じたり。こういうのが女子高生としてリアルだとすれば、きょうびの若い男性が現実の女性などどうでも良い2次元でええ、と感ずる気持ちも分かってしまうなあ。そんなもの分かりたくないのに。