『グ、ア、ム』本谷有希子

やっぱ読んでいて楽しいし、次から次へとページをめくりたくなるので文字通り一気に読めるし、そういうのも小説のひとつの重要な要素だとは思う。一度読み出すと止まらなくさせる力を、持っているのかいないのか。世事を忘れて没入させられるかどうか。
それが本谷有希子の作品に健在だったのは安心ではあるが、正直前作(『生きているだけで、愛』)からは若干後退気味だろうか。姉妹の葛藤を描いたせいなのか、印象としては『腑抜けども〜』の世界に戻ったような感じ。姉=上昇志向、妹=反発という構図もそのままだし。むろん、文章のひとつひとつを詳細にみれば変わっては(上手くなっては)いるんだろうし、あれに比べれば焦点はしっかりしているのだけれど。
姉が途中でさらりと改心してしまうあたりをみてもやはり妹からみた世界という感じになっているのだが、それは仕方ないとしても、前作での主人公の恋人である不器用な男性のような魅力ある第三者が今回はいない。姉妹それぞれが関係する男についても、また両親についても、表面的なままだ。父親の存在がなかなかいいのだが、彼の動機がなんとも不透明すぎるように感じた。