『ゼロの王国』鹿島田真希の新連載on群像

またしても過去に酷評した作家の評価が覆ることに。しかも今回は掛け値無しに面白い。なんだったんだろう、あの『ピカルディーの三度』は。
読んでてまず思ったのが、ドストエフスキーみたいだな、というもの。内面描写にしても実際の会話にしても実にながい科白まわしだし、内容もまたくどい。で、合理的でいながら世の中とずれた感じとか、思い込みで押し通してしまう感じとか、私の少ない読書経験からいってドストエフスキーなのだ、これは。
もちろん実際にこんな会話がなされることなどありえないわけで、リアリズムではないのだが、こういうのは、私小説的リアリズムや、非現実な世界を描くアンチリアリズムなどとは別の意味で評価されていいと思う。舞台設定は現在で、近代小説のもっとも近代小説らしい感じが味わえるごく稀な貴重な作品で、群像の連載を読むのがこれで楽しくなりそうで、素直に嬉しい。