『とある光』瀬戸良枝

なんか観念的な描写が多くて疲れてしまった。情景の喚起力は充分あるのだから、きっと文章はそれほど悪いものでもないのだろうが、それにしてもこの心理はいったいどういう事なのか、とか読み込みにちょっと難儀した。凝り過ぎというかなんというか、どういう事を言いたいのかイマイチつかめないのである。私の読解力の問題もあるのだろうが。
情景の喚起力といったが、非リアリズム小説の場合私にとってそこが重要で、情景の喚起力がイマイチだと、小説としてもう極端にいえば読めない。苦しい。この小説はそこはクリアしている。多くの人が夢のなかで遭遇するようないかにもな光景が、うまく描かれているなあ、と思う。場の雰囲気を出すのはうまい。
その夢幻的世界のなかでのある一組の父子の邂逅を触媒にして、主人公が、過去の整理できないことを想起し、乗り越えようとするみたいな話なのだが、肝心の過去の物語はほとんど出てこない。自分で悩み、自分だけで乗り越えようとする。
自己の内部をときに徹底的に覗き込んで悪いとは言わないが、こういう「自分」しか出てこないような小説は苦手。いろんな人物を登場させてはいるが、すべて自分の意識が投影された存在、自分自身の別の姿であるかのように感じてしまう。退屈なのである。
こういう小説を読むと、私が小説を読む大きな理由のひとつは「他人」に出会えることなんだなあ、などと思ってしまう。むろん、小説の主人公だって読者である私にとってもちろん「他人」なんだけど、でもやはり、それだけでは読み進める力には、中々ならなかったりする。