『ケイタリング・ドライブ』中島たい子

この人の文章は入って行きやすいんだよね。よく考えられているうえに、センスもあるんだと思う。こういう所に技術を感じるなあ。レトリックを気にさせずに内容を入らせるみたいな所。
男性主人公だけど、ほかの女性作家が描く男性よりは不自然さはない。描きこみの浅さはあるが、我慢できる範囲だと思う。
というか、この浅さは、中間小説のものって気がするんだよね。小説ごとにテーマを分かり易く設定し、心理描写をほどほどに済ませる中島のようなスタイルは、一流の娯楽小説と捉えても良いところがある。
またこの小説のラブストーリー的部分、美人の子がじつはあまり性格がよろしくなくて、いつものツルミ仲間の恋愛対象じゃなかった子が気になりだす、なんてのは、まるで少女漫画的にベタでありながら、しかし良く描けている。私もツルミ仲間の女の子に親近感を抱いてしまった。このへんも娯楽小説的。


とは書いたものの、文明批評部分については、先の安達作品より確実に上だったりする。とくに高速のSAでは、今やけっこう旨いものが食えたりする所など、我々を囲む快適さについての逃れがたさをよく捉えていると思う。
ただ、筋的に、すでに遅刻確定しておきながらSAで何品も頼んでしまうというのは、ちょっと無理があったかな。そんな無計画で無茶をするような人の料理教室が流行ったりするもんだろうか。


小さいところでは、フッ素加工の調理器具が料理研究家、技術のいらないアイデア勝負、を生み出したのではないか、という指摘や、旨いもんといえば、どうせ柔らかい肉とかだろう、という指摘は面白かった。
もっと食に対する批評があると考えていた向きには肩透かしかもしれないが、なかなかの作品。