野間文芸新人賞の選評

町田康を敬遠してきたと書いたけれど、それは作品のことであって、彼の選評というのは選評好きの私としては当然よく目にしていて、イヤな感じを受けたことはほとんど無い。
むしろ選考委員のなかでたいてい一番毅然としているのは、町田氏だったような気もする。
他の誰もが推すものを自分ひとりだけでも強硬に否定してみたり、また誰もが推さないものを大プッシュしたりという。


これと対照的なのが川上弘美
川上の選評に関してはあまり読んではいないんだけれど、選考への熱意よりも、どう立ち回れば自分の位置が高まるかという政治的な臭いのほうを強く感じる。
青木淳悟が受賞したときの選評で、別の機会に自分が前に2度読んで否定した青木の作品を今回は面白かったとか書いていて、どこがどう面白かったかひとつも書いてない。
そして前回と今回の間に、青木の改稿があったことに安心しつつ、文学作品を評価するのは難しいとか書く。
ようするに、青木の改稿の事実をもって自らの見識が確かなものであることをアピールしつつ、評価というのは難しいなどと書いて、いかにも自分にも落ち度がいくらかあったような倫理的なポーズをとるのだ。
こうした立ち回りのウマさが、どうしても鼻についてしまう。


いっぽう川上よりも通俗と見られている江國香織の選評は、川上と同様の印象批評でしかないのだけれど、それでも読むものを不快にさせないることはない。
むしろ、この人の選評には、いつも自負みたいなものを感じさせて気持ちよかったりもする。
青木淳悟に関して、明確な批評めいた言葉は無く、なんとなく魅力とか、もしかしたら大きな力があるとかそういう書き方なのだが、それでも多少否定されたところで怯まない所からそう書いているのは伝わってくる。
とは書いたものの、江國は辻と組んでやってる人だから、私が嫌いそうなポジションの人ではある。
けっきょく、つい川上と比べてしまうから良く見えてしまうというのが、江國を誉めてしまう大きな原因なのかもしれない。
 ※2007.4.13改稿