『冬蛇』瀬戸良枝

後ろの著者紹介を見ると古臭い名前の割に若いようなので読むことに。
したのだが、作品の内容じたいは、例えば金井美恵子の小説などよりむしろ古臭い。年の離れた余命いくばくもない男性と知り合った若い女性が、いよいよその男性の命があと数日というときになって、その男性の義弟だか義兄だかとエッチしてしまう話。
雨が吹き込んだりとか雲が垂れ込めたりとか、そういう情景が効果的に描かれていてその分最後まで読めたが、話自体は退屈ではある。
もしかしたら作者は、主人公が体=性愛に囚われることを描こうとしたのかもしれないが、自分は女であるという意識が余計に性愛にのめり込ませていて、むしろ体ではなく観念=言葉の囚われとなっている。つまりは、男性は肉体的な刺激よりも観念で感じたりする傾向があるという俗論めいたものを真とするならば、性愛における態度は男性的といって良く、この小説の後半は男性が描く男性向けのポルノ小説のようですらある。
また、川上未映子の小説と比べてみても面白い。意識にとって体というのがどこまで他者なのか、という意味ではやはり川上の方に説得力を感じてしまうのだが。
それと説得力という意味では、主人公の女性の病気の男性への愛がどうもそれに欠ける。彼の何が主人公女性にそこまで愛させたのか、がよく分からない。「愛してる」「愛してる」とただその言葉ばかりが繰り返されているだけなのだ。いや、その愛が自己愛の一種だと後半で暴露されてしまうのだから、それでいいのかもしれないが、むしろ私は、病気の彼への愛が真実として描かれれば描かれるほど、後半での裏切りもまた真剣味を増すのだと思う。この愛を前半でいかに説得力を持たせられるかが、ポイントなのだ、と。