『あなたたちの恋愛は瀕死』川上未映子

注目の芥川賞受賞第一作。きっとこれのせいで、いつも発売日の後も余っている『文學界』が私のいつも行く本屋では私が最後の一冊を買うことになった、と勝手に思ってるのだが、さて内容はどうかというと。
うーむ、たしかに文章の密度は濃くてこの量にしては読み応えはあるのだが。新鮮な感覚を感じさせる比喩も見られる。
ただ、面白いかというと少し迷うものがあった。あまりにも前作が面白かったせいか。フムフムと読めるのだが、フフフとは読めない。
作品が文学として優れているかどうか、というのが私のような阿呆には判断がつかないので、エンターテインしてくれるかどうかというのをここでは判断基準にしているわけだが、やはり退屈な女性の行状を描いてなかなかエンターテインメントにはならない。ラストに向けて、醜く破綻して終わるというのもなんとも文学的で、もう少しでいいからやはり破格なものが欲しい。
退屈な女性といったが、いままで純文学では出会ったことのないようなタイプの女性で、設定上の面白さはけっこう感じるものがあった。彼女は、性的な部分でかなり奥手な女性なのだが、文学少女的観念が先行するタイプではなく、観念の薄いタイプなのだ。そもそもなかなか小説にしにくいタイプなのだ。本屋が苦手というし。
彼女は性的な行動においては、世の中から疎外され(てると自分では思っ)ているが、いっぽう、化粧や靴などファッションには敏感であり、資本のマーケティングの対象としては上手に振舞うことができる。この対比が面白い。
これを、資本主義がいくら発展しても、愛だの恋だのの人間の心の奥深いところまでコントロールするのは難しいと読むよりも、私はむしろ、愛だの恋だのでコントロールできないような、一ヶ所に止まりがちな人間でも、容易になびかせてしまう力を資本商品というものは持っているものだなあというふうに読んだ。資本の力と、その網の目の広さというのはスゴイのだなあ、と。
短編だからなのか、そういう所はたんに説明で終わらせてしまわざるを得ないのだが、性的関係の理解へのこだわりという文学的な部分より、そういう資本商品の魅力と、その力で毎日を終わらせることができる生活の様子に描写の比重があればもっと面白かったかもしれない。そこには、けっして単に退屈では終わらせられない部分があると思う。