『だだだな町、ぐぐぐなおれ』広小路尚祈

最後まであまりペースが変わらず、それでも退屈することなく読めた。これだけで私的にはもう合格。
これだけ面白い作品が肝心の新人賞にならなかったのは、まず相手が悪かったことと、それとやはり題名からし町田康を思い浮かべてしまうことだろう。ある意味順当である。
主人公男性の恋人である女性に存在感があるのが、まず良いと思ったところ。それに、こういう控えめで女性らしい感じの人、ルックスも良い美人タイプような女性が、21まで処女だったというところなどいかにもありそうな話だ。
もうとっくに男なんているだろうと思われて、あるいは、この人とじゃ釣り合わねえ、あるいは、振られるに決まってると思い込まれ、こういう人って意外とモテなかったりする、とどこかで聞いた覚えがある。
ところでテーマであるだだだがどういうものか、ぐぐぐはどういうものか、そしてその狭間でどう生きるべきか、というのは、現代人であれば誰もが経験するようなものだと思う。
パンクロッカーが主人公であり、当然パンクスの頭の中といえばそれなりだから、その一人称小説としてだだだとぐぐぐの対立は非常に分かり易く描かれる。
自由をめぐる逆説とか、働いて得たお金は使えなくなってしまうところとか、その発想の中身自体は通俗なのだがパンクロッカーだけに許さざるを得ない気持ちにもなり、聞かされている方として嫌な気分になることはない。
このように単純化されると何だなとか、若いだけの青春小説かなという気持ちも否定できないが、狭間における心情としてけっして共感できなくはない部分も多くあった。そのことは、潔く認めたいと思う。
テーマ自体が、このように凡庸なだけに並みの文章では、退屈になってしまうだろう。ようするにそれを補うほどには、文章的には面白い記述がそれなりにあった、ということ。それが町田康調ではなく、あるいはひねりのあるストーリーでもあれば新人賞もあったかもしれないが、この作者が町田康的文章と出会うことで表現を獲得したのだとしたら、それも叶わぬ事になる。
これからも変に気取らず頑張って欲しい。文學界新人賞川上弘美が推したほうの人の作品なんかより、ずっと良かったんだけどなあ。